くすり道楽 WEB

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平成14年(2002年)5月号(第12号)

今月の表紙

運び屋さん

ネパールでは、物を担ぐときに、ドコと呼ばれるカゴと、ナムロと呼ばれる縄を使います。で、使い方は、ドコにナムロをかけて、頭と言うか額に引っ掛けてかかえあげます。(一番右の人参照)40〜50kgくらいは女の人でも軽々と運んでしまうのはびっくりしました。私は?全くダメでした。

写真は、子供をドコに背負って山を登ろうとしているポーター(運び屋)さんたちです。

 

まえがき

クスリは難しく考えると、果てしなく難しい。だから。できるだけ簡単に考える。
という精神で、今後もやっていこうと思います。で。今回は主に「ハルシオン」という有名なクスリを例に、短時間型薬剤のことと、先進諸国と日本の添付書を比較して、エビデンスに対する姿勢の違いを書いてみたいと思います。

特集:向精神薬関係のこと(その2)

短時間型睡眠導入剤についての考え方
私は、抗不安剤も睡眠剤も鎮静剤も麻酔剤も全て「お酒」と考えてから評価を始める、と先月書きました。ならば、私は、短時間型とはどんな「お酒」と考えているのか、から話を始めたいと思います。

先月の繰り返し
「酔う」というのは、アルコールによる麻酔作用と思ってください。で、麻酔作用の段階は第一期(痛覚低下期)第二期(興奮期)第三期(外科麻酔期)第四期(延髄麻酔期)の四つに分かれます。
第二期は、初期の軽い麻酔によって、精神的な抑制が解かれることによって、興奮状態が表面化すること、ココが酒酔いの気持ちいいところで、それ以上なら、前後不覚で寝てしまうレベル〜死ぬレベル(第四期)まで進むということです。
精神安定剤系統も、ほぼ同様なので、「精神安定剤=お酒」と理解すればわかりやすいというのが前号の趣旨です。

「ハルシオン」や「アモバン」という銘柄
これらは、超短時間型といわれる睡眠導入剤です。即効で寝るレベルまで興奮性を抑制します。テキーラとかバーボンのストレートを小さなグラスでキュっとやって、一気に寝てしまう感じです。って書けばわかりやすい?
こういった場合は、日本酒でちびちびと深酒して、寝てしまう量よりも、アルコールは少ないですよね。で、アルコールの体内半減期(体の中で半分になる時間)は約3時間くらいです。したがって、「寝酒で一杯キュッとやって」寝ると、中途覚醒しやすいです。逆に日本酒の深酒なら、なかなか覚醒レベルまで抜けないので、「気づいたら知らないところで昼を向かえていた」って感じになります。(私だけ?)
さて、超短時間型の代表「ハルシオン」は、半減期が3時間程度と、アルコールとほぼ同じです。その効果も、見れば見るほどアルコールに似ています。

ちょっと一息

ハルシオンは、やっぱり売れているので、後発品(ゾロ)も出ています。商品名:トリアゾラム錠、ハルラック、アサシオン、パルレオン、トリアラム、アスコマーナ、カムリトン、フロサイン、ネスゲン、ミンザインなど。儲かるのかな?イギリスでは販売停止処分なのにねえ。でも、ミンザインというネーミングセンスは…。
ハルシオン。0.25rの方(規格が大きいほう)は裏取引で「銀ハル」と呼ばれて1シート500円という者も居れば、1錠1000円くらいのもある。1錠2000円にはクレームがついてた。ハルシオンの乱用を調べたい人は、インターネットでハルシオンで検索。ざっと2000件以上は出ます。ほとんど乱用系。最近は他の睡眠薬もやってるみたい。


「ハルシオン」と酒の類似性
私が、ハルシオンと酒にこだわり始めた事例は、もう数年前になりますが、80を過ぎたおばあちゃんの「夜の盆踊り」でした。ハルシオン禁止にもかかわらず、その日はなぜか病棟ストックからハルシオンが渡されました。それからが大変だったらしく(看護婦談)、ベットサイドに立って騒ぎ踊り、これが止まらない。当直の先生を呼ぶやらなにやら。しばらくして落ち着いたようです。服薬指導にも行っていた親しいおばあちゃんでしたので、翌日行ってみたら「なーんにも覚えとらん」。けど、踊ったのは恥ずかしかったらしいようでした。ハルシオン禁止の理由は「前の時も踊った」んだそうです。(アレルギーとか血圧低下などの理由で禁止でなくて良かったと思った次第)それで、添付文書見たら堅い文章で「中途覚醒」だの「異常行動」だのと書いてあったのですが、「酔っ払ったみたいだった」と看護婦さんが言って気づきました。「添付文書に一言、酔っ払ったような症状と書いてくれれば、全部想像つくのに!」


というところで「添付文書」の警告を見て( )内に解釈を入れてみると

「服用後にもうろう状態(よっぱらったなあというところ)睡眠中の中途覚醒(寝酒がさめちゃった)睡眠時間不十分(寝酒は長く続かない)覚醒後数時間の出来事について記憶完全喪失(覚えてない)攻撃性や興奮性の異常行動(酔っ払って騒いでいるとか、からんでいるとか)


さらに、短時間型で連用や依存が起こりやすいのも、お酒に似ているからと指摘する文献も多い。中途覚醒しやすく、耐性形成が早いので、増量し依存が起こりやすい。また、半減期が3時間とは言え、高用量なら昼間へ効果が残り、判断・記憶が鈍るため、さらにイライラや不安が増強する。しかしながらもともと不安などがあるのだから、もとの状態の悪化ととらえられ、さらなる増量。
また悪いのは、都合の良いように「軽い薬」とか「短いクスリ」などの宣伝がなされて、危険性が語られない点にもあります。
私は、薬の公開講座の相談員を行っているけれども、睡眠薬系統使用に対する「不安」の相談は多いです。不必要に恐れてもいけないけれど、あまりに安易な連用は困ったものです。アルコール依存症と同じような者を作らないようにしないと。
ズバッと効いて、スッと抜けるという利点を活かした使い方が大切ですね。


先進国でのハルシオン中止と、日本とアメリカの対応の違い
さて、特に欧州でハルシオンに対しては承認取り消しなどの措置がとられています。服用して射殺事件を起こしたりと問題が大きく、しかも本人たちは覚えてないなど、よろしくない事が多すぎた為です。手に入れた本によれば、オランダが1980年〜90年、イギリスでは1991年〜93年承認取り消し措置、解除後も販売されていない。(オランダは保険請求できない)オーストラリアも保険請求できない。フランスは0.125rのみ承認で、一日0.25rまで。
日本では0.5rまで普通に可能で、患者用説明は1.医師の指示通り。2.就寝直前服用。3.寝た後仕事をする人はダメ。4.アルコールとの服用禁止。5.自分の判断で増やさない。6.あげたりもらったりしない。という6項目だけです。ハルシオンの世界市場の6割のシェアを占めるにはこれくらい軽い扱いにしないと?商売にならない。


さて、アメリカですが、B5版で4ページくらいの患者用説明書の内容を説明しなさいということになっています。以下、抜粋して簡単に内容を紹介しましょう。

アメリカの患者用説明書の要点(直訳を抜粋したのでわかりにくいかも)
はじめに、ベンゾジアゼピン系は、服用を続けると効きが悪くなったり、数日〜1週間を超えると依存が生じたり、情緒の異常が現れたりとの危険性や限界について認識の事。以下ベンゾジアゼピン系の説明とハルシオンについて述べる。
ベンゾジアゼピンの有効性は、これを短期間の睡眠障害(不眠)に使用する限りは有効で、重大な害作用はあまり起こらない。不眠の多くは一時的なものであるから、短期使用で済む。済まない場合は利益と危険性について医師と相談。
よくみられる副作用は、眠気・集中力低下などで、服用中アルコール禁止。ハルシオンは翌日に残りにくいが、逆に何日か使用した後、禁断症状を起こしやすい。
特記事項では、健忘症。飛行機などの旅行中、薬の効果がなくなる前に目覚めるために起こるので問題になったりします。「旅行者健忘」と呼ばれますが、ハルシオンは他のベンゾジアゼピンより起こりやすい。
入眠効果の低下は、2〜3週間、毎日服用で起こりやすく、依存も生じている。夜を3等分にすると、最後の3分の1によけい目覚めるとか、日中に不安が高じるとか神経質になることはハルシオンで特によく報告されている。
中止した場合にはもっと強い禁断症状が起こる。ほんの1〜2週間使用した後でも生じる。「反動性不眠」は急に中止した最初の数日間、不眠が悪化すること。重大な禁断症状として、胃痙攣や筋肉の痙攣嘔吐、発汗、ふるえ、などがあります。重大な禁断症状はあまりおこらない。
依存・乱用、ベンゾジアゼピンは全て依存症を生じる。
情緒面・行動面では、変化が起こることが報告されている。これらは飲酒時とよく似ている。攻撃的で外交的になったりします。錯乱、興奮、幻覚、人格崩壊、自殺。
他、相互作用や妊婦禁止など。
医師の指示が無い限りは7〜10日以上服用しない。
7〜8時間以内の飛行機旅行などでは使用しない。
などが書かれています。


なめられた日本国民
アメリカの薬事行政が全てよいわけではありませんが、それにしても日本の薬事行政は世界最貧国並み(ネパールの医薬品管理局で働いた私が言うのだから間違いない)ですから、ハルシオン遊びが流行る野放し状態。血液製剤ではエイズ、C肝が起ころうがミドリ十字が大切だったし、ヤコブも、古くはキノホルムも全て。アップジョンなどというホルモン剤で世界的にいい商売をしている会社にとっては赤子の手をひねるような国。

さて、「アモバン」(商品名です。一般名ゾピクロン)
ハルシオンと同じ短時間型(半減期約5時間)のベンゾジアゼピン類似物質「アモバン」はどうでしょうか。アモバンは向精神薬に指定されておらず(マイスリーと同じ)今では長期投与可能な超短時間型睡眠導入剤というモノになりました。
海外の状況として、販売されているイギリスの文献から使用法を見てみます。
Treatment duration: Transient insomnia 2-5 days. Short term insomnia 2-3 weeks. A single course of treatment should not continue for longer than 4 weeks including any tapering off.
つまり、一時的な不眠症に2〜5日と、短期間の不眠に2〜3週間の使用で、どのような減量期間を含んでも4週間を超えてはならないとされています。
その前文には、不眠症の短期間の治療に用いる事としていくつかの型を示しています。

さらに一息

アブないサイトに書いてあった、アモバンの苦味の対処
アモバンは飲めば苦くて、乱用者も手を出しにくいクスリ。それでも乱用者はいろいろ考えるもので、レモンなどのすっぱい果汁系のキャンディーや梅肉エキスのモノを一緒に食べれば軽減されるらしい。そうまでして乱用したいのか?

まとめ
超短時間型睡眠剤は、ズバッと効いて、スッと抜ける特性を行かした一撃離脱の短期決戦用のクスリといった感じでとらえると、害も無くすばらしいクスリでしょう。


追加(すでに依存となっている場合の対処)
短時間型は依存を起こしやすいので、対処法を書いてないと完全ではありません。
今、服用していて安定している人であっても、増加傾向にある人には特に必要です。
少量短期間で生じた依存:1〜2日の反跳性不眠を我慢してみると中止可能な場合が多い。
他のベンゾジアゼピン併用例など:一気に中止すると、間違いなく離脱症状が出ます。一旦、長時間作用型安定剤(代表:ホリゾン)に切り替え、それを徐々に減量(一週間に4分の1づつ減量など)し中止など、アルコール依存症に対する治療と同様で、減量がきつくて離脱症状が出た場合は、もとの量に戻して、減量の程度を半分にしながら行う方が良い。

ネパールのこと(番外編)

ネパール脱出(その3)ゴアへの道

カトマンズ〜ニューデリー〜ボンベイ(ムンバイ)へ、順調に進んだインドの旅。実は、ボンベイからタイのバンコクへの航空チケットは持っているものの、フライトは11日後だったか、何の計画性も無いというか、計画しない旅だったので、宿を探してブラブラ。汚い格好だったから?全ての宿に宿泊拒否され「ヤバいな」。
そこで知り合った恰幅のいいインド人。2人で昼真っからビール10本以上あけて、気づいたら結構な額の請求(2400円くらい)。なんだか腹が立ってケンカしたのでバスに乗ってゴアに行くことにした。別に行きたかった理由は無いが、そのインド人が「ゴアは楽しい」と言っていたのでなんとなく。バスは500ルピー(1600円位)、「16時間くらいで着くよ」。
思いつきとは言え、16時間はチト長い。インドの広さが立ちはだかる。まあ、ボンベイで泊まれなかったから、バス泊もいいか。酔いも手伝ってしばらく寝る。
休憩でバスが止まった時のインド人同士の会話、「このあたりで以前、山賊がでたらしい」「へー!それは怖い」「殺された人もいるらしい」「他の所では列車がやられた」「あぶないなあ」「神様!だいじょうぶかなあ」
とたんに、ボンベイに泊まっとけば良かったと後悔。自分の荷物をバスの座席にチェーンロック(自転車用のやつ、インド旅行必需品)で縛りつける。鍵をかけて、「でも山賊に開けろと言われたらいっしょだなあ」とか。とりあえず眠れなくなったのは確か。それでも睡魔は襲ってくる。
気づいたら朝。緑の林の中をバスが走る。

無事。

ちょうどいいことに、私の座席が壊れていて、背もたれが起きない。後ろのオニイチャンが「おい、これ起こせよ」と言ってくるが「壊れてる」とガチャガチャやって、「仕方ねえな」。そのうちに海の近くだなあと分かるようになってきて、ゴア着。昨日夕方4時に出発して、到着が8時ちょっと過ぎ。ほぼ16時間で、結構時間に正確だなと思ったりする。
川沿いに扇風機付の宿が250ルピー(800円)くらいで取れ、ホッとする。早速地元のビールらしき「カールフィッシャー」を飲めば、「まあ、これがインドか」なんて気になる。それにしても、旅行は多少の予備知識は必要かな。何故かって?後に8時間の高速艇がボンベイーゴア間を繋いでいるらしいことを、ゴアの観光案内所で聞いた。ボンベイへの帰りは、これに乗ったのは言うまでも無い。

ゴア州は、小さな州ですが、イギリスではなく、ポルトガルの支配下だったようで、インドの他の都市、たとえば、ボンベイ(ムンバイ)などとは大きく異なっています。それは、建築物でも一緒で、上の教会なども、「本当にインド?」といった雰囲気でした。

インド人の観光客も多く、九州で言うなら、宮崎県みたいな所(宮崎は昔は新婚旅行の名所だったらしいので)かな?

ゴミゴミとしたニューデリーとか、ゴツゴツとしたボンベイとは対照的です。

すでに表紙に使った写真ですが、ゴアの海岸も、インドではない雰囲気なので、インド旅行に疲れてしまった方、ゴアで休憩はいかがでしょうか。

 

 

 

DRUG INFO FILE

過去の問い合わせから、興味深そうなものを選んで、毎月1〜2題を紹介するコーナーです。
Q:ホクナリンテープ、顔に貼ったら?
A:止めてください。

最近は薬剤も進歩して、全身作用などを期待する貼り薬などが結構開発されています。
ニトロダームTTSやフランドルテープは、狭心症に用いる貼り薬。ホクナリンテープは喘息治療剤。
禁煙用のニコチンパッチ剤とか、ホルモン剤系統の貼り薬など。
これらは、上半身のどこかに貼るように指示されます。
吸収率などを調べると、基本的には何処に貼っても変わらないという事ですが、事情があるようで、例えば、足に貼ると動くのではげるとか、半減期が短いので上半身限定とか、女性ホルモン剤では乳がんの恐れがあるので腹に限定、とか。
しかしながら、顔のデータは何処も持ってないらしく、どのメーカーも明確な答えができないようです。(そりゃそうだ。顔にニトロダームを貼って歩いていたら変だし。かぶれた時は大変だし。)
でも今回、鼻がつまるという喘息患者さんで、鼻にホクナリンテープを貼る事例があった。本人曰く「鼻が通る」。β2刺激剤なので血管も拡張方向に働くとすれば、実は鼻づまりには悪いわけで、結局、テープ剤の弾力による物理的な働きで、鼻の通りがよくなっただけと考えられた。
顔の場合は「たぶん」吸収が良いだろうと想像されるので、薬剤の効き過ぎの恐れもあって、(胸にも貼っていたので)顔に貼るのは止めてもらう事にしました。
その他にも、歯が痛いので、モーラステープ(シップ剤)を顔に貼ったなどの事例もありますが、特にモーラス、モーラステープは、光線過敏症(光が当たるとアレルギーを起こす)などの事例も報告されましたので、顔に貼っている人を見かけたら、注意してあげて下さい。

(以上、商品名で恐縮です)

あとがき

痩せた人と太った人

当院医師が、エジプトでの体験を紹介した本が出版されています。挿絵も御自分で描かれたそうで、とてもスゴイ本です。エジプトでは、人をもてなす時はとにかく腹いっぱい食べさせるし、食べないわけにはいかない。しかし勧められるだけ食べる事は到底できない。最初はつらかったが…。なんて事が書かれていて、その後に、料理への上手な対処法、残し方(お皿が空いてないように見せかける方法)など、エジプトの習慣と日本人のギャップ、それを埋める裏ワザ的対処などが面白く綴られています。

私もネパールでは、死ぬほど(本当に)食べさせられ、涙を浮かべながら皿に向かった記憶もあって、彼らのもてなし=食べさせる事との闘いを思い出しました。また、エジプトとネパールの類似点の多さに驚いたりしながら、楽しく読まさせていただきました。
ちなみに、女性はどちらの国も恰幅の良い(太っている)方が良いようです。
(痩せている私は、身分の低い、空腹の貧乏人と思われていました。)

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