くすり道楽 WEB

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平成14年(2002年)8月号(第15号)

今月の表紙

カンクロー

カンクローです。歌舞伎役者ではなくて、ネパールではキュウリのことをカンクローといいます。見たとおり、日本のものに比べると大きいです。かなり食べ甲斐があります。みずみずしく、熱い農作業のあとには特に美味いものです。
親に写真を見せたら、「日本のキュウリも昔は大きかった」といい、珍しそうではなかったのに少しがっかりしました。本当に大きかったのかなあ?

 

特集:抗生物質使用ガイドラインの解説(1)
何故ガイドラインが必要なのか。
最近、福岡でVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)の集団発生が報じられました。バンコマイシンが効かないとなると、何も使うものがありません。その病院は、感染症に対し、大変追い込まれている状況であろうと想像されるし、一度定着したVREは、病院を焼かない限り、存在し続けると考えられます。
さらに言えば、このような高度耐性菌を発生させてしまうと、ニュースで報じられるくらいの「大事故」であると認識されます。従って、抗生物質の使用は慎重にならざるを得ないということになります。


ペニシリン系と第一、第二セフェム系以外は極力使わないという意味で、カルバペネム系抗生物質(チエナム)については、薬剤部へ使用許可申請を行わなければならない大学病院も幾つか出てきました。第三、四セフェムの第一選択は避けるのを徹底する病院もあります。
だからといって、使わないと治療できない場合もあるわけで、何でもかんでも、ペニシリン系と第一、第二セフェム系というわけにはいきません。どういう場合なら使用した方が良いのかを考えなければなりません。
そこで、抗生物質使用ガイドラインが必要となるわけです。

今回作成したガイドラインの根拠
ガイドライン作成にあたっては、根拠が明らかでなければなりません。「こう思う」とか「こうだった」とか、観念的、感覚的なものは極力排除し、データしか信じないようにしないと、バイアスがかかってダメだと考えました。ただし、ガイドラインはいくつも出されていて、どれも違うことが書かれているので、根拠を選択しなければならない事も確かでありました。そこで、
日本感染症学会、日本化学療法学会が編集した「抗菌薬使用の手引き」を根拠とすることにし、オーストラリアの治療ガイドライン、日本呼吸器学会のガイドラインなどで矛盾が無いか確認するという手法で作成しました。

根拠はハッキリしていたか
ここが、最も肝心なところで、しかしながら、肺炎や髄膜炎などの根拠はずいぶんと詳しいのに対して、他では「議論のあるところ」というような表現が目立ったし、いくつかは、手薄な感じが否めなかった。
が、しかし!信ずるものの柱を一本しっかりと把持して作業を行わないと、最終的に何を根拠にしたのか判らない変なものになる恐れがあるので、あくまで日本の学界の根拠を柱としました。

具体的解説(髄膜炎のガイドラインについて)
いろいろと、基本的な部分の解説が必要ですが、それよりも、まず一例として髄膜炎を取り上げて、なぜ18歳〜60歳ならロセフィンなのか(第三世代セフェムを第一選択ではイケナイと言われているものをあえて選んだのか)などについて解説してゆきたいと思います。

(院内オリジナル版では、クリニカルパス形式の髄膜炎ガイドラインがA4の1枚で添付しましたが、これには技術的に載せにくかったので省略、以下解説で。)

髄膜炎の原因微生物
髄膜炎の原因微生物には、ウイルス、クラミジア、リケッチア、マイコプラズマ、細菌、スピロヘータ、真菌、原虫、寄生虫があります。
このうち、細菌性とウイルス性の頻度が最も高いと言えます。化膿性(細菌性)髄膜炎と、細菌の存在が証明されない無菌性髄膜炎(多くはウイルス)に分けられるので、抗生物質が効くのは、この細菌性の方だけという事になります。

余談:7年ほど前、私が髄膜炎で入院したのですが、無菌性髄膜炎という診断でした。首が上に向かないで2日ほど仕事していましたが、結構たいへんなものです。抗生物質を服用してしまっていたので、菌が検出されなかったのかな?という事例です。こういった場合は、感染原因を探り、その起炎菌を原因菌として抗生剤を選択します。私の場合はビクシリン(ABPC)が適応でした。

さて、細菌性髄膜炎については、分析ができています。
化膿性髄膜炎の代表的細菌は
インフルエンザ菌(グラム陰性桿菌:H.influenzae)、肺炎球菌(グラム陽性球菌:S.pneumoniae)、髄膜炎菌(グラム陰性球菌:N.meningitidis)の3種類で、全体の80%を占めます。
ということは、お気づきだと思いますが、「この3種の菌に有効な抗菌剤を選べば、80%正解」と言えます。
そこで、抗菌薬の感受性の表(どの菌に効くかを示した一覧表:メーカーに言えばすぐに手に入る)を見ます。そうすると、実は、殆ど全てのペニシリン、セフェムが有効で「何でも効く」事になってしまいます。これは間違い。何故か?
感受性の表は、試験管内で菌と抗菌剤を同居させたとき効くか効かないかを示したもの。

生体内では、環境が異なります。まず、ペニシリン系は、髄液移行が良くないので、髄膜炎菌は良く殺せるけれども、肺炎球菌を殺す濃度に達しにくい。また、ペニシリン耐性(耐性=効かない)肺炎球菌の頻度が高くなっているので、使いづらい。インフルエンザ菌もBLNAR(βラクタマーゼを作らないのにアンピシリンに耐性)というのが増えていて、耐性でなければペニシリン、耐性ならばグラム陰性菌に強い第三世代セフェムとなります。難しい。
セフェム系で言えば、髄膜炎菌は若干苦手な商品が多い。十分に髄液に移行して、効果を表すものは数品目に限られてくる。


さらに難しい問題=起炎菌は年令によって違う
細菌性髄膜炎の3大起炎菌はわかりました。しかしながら、実は、年令によって起炎菌が異なるのです。全年齢皆一緒と言うわけにいきません。さらに困った。

で、以下のような場合分けが、いくつか示されています。

新生児(1ヶ月未満) B型レンサ球菌、大腸菌、リステリア
乳児〜幼児(1ヶ月〜4才) インフルエンザ菌、肺炎球菌、髄膜炎菌
年長児〜青年期(5〜29才) 肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌
成人(29〜50才) 肺炎球菌、髄膜炎菌
高齢者 肺炎球菌、グラム陰性桿菌、リステリア

1998 Medical Practice
 
そこで、ガイドラインの出番です。
さて、ここまで条件が出てくると、何となく頭の中で「あれを使えば」という感じになってきます。しかし!「感覚」に頼れば、エビデンスが希薄になります。そこでガイドラインの出番です。
まず、年令については、参考ガイドラインは18〜60才をほぼ同傾向とみなし、それ以下と高齢者を分けています。
抗菌剤について言えば、もし、菌が判ったとしたら、
肺炎球菌ならば、第三世代セフェムのうちCTRX(商品名:ロセフィン)かCTX(商品名:クラフォラン)を使いなさいとなっている。(日本・オーストラリア共通)
インフルエンザ菌なら、タイプBが多いから、感受性ならABPC(商品名:ビクシリン)、非感受性ならCTRX(商品名:ロセフィン)かCTX(商品名:クラフォラン)
髄膜炎菌は、文句無くペニシリンなら良い事になっているが、ペニシリンアレルギーならCTRX(商品名:ロセフィン)かCTX(商品名:クラフォラン)。
商品名が出ているということは、他ではダメということ。ロセフィンは何故名前が出てくるかといえば、髄液移行性が格段に良く、3種の菌に効果があるとのデータがあるから。

18〜60才の髄膜炎の患者さんがやってきたら
作成したガイドラインに従えば、ロセフィンを投与します。1回1瓶を1日1〜4回。データに従えば、これで多くの場合効くはずです。同時に菌の培養を行います。
ガイドラインはあくまで、データに基づいたもので、実は、起炎菌は他にあったとか、耐性菌だったとか、いうことがあるわけです。
ガイドラインの第一選択薬はあくまで「次善の策」。培養結果に基づいて、効くモノを選ぶまでの繋ぎです。

ちなみに、オーストラリアガイドラインでは
生後3ヶ月〜15才までの場合、ペニシリンは使用しなくて良い。理由は、ペニシリンはセファロスポリン耐性のリステリア菌をカバーするものとして追加するだけであり、免疫抑制が無い限り、この年齢層の患者ではリステリア感染症はほとんど起こらないからである。
それ以外の場合は、ロセフィン+ペニシリン(AMPC)の併用としている。(すなわち、高齢者のリステリアまでのカバーと言うこと)明快である。が、日本の保険制度でβラクタムの併用は心配である。
なので、作成したガイドラインでは、60才以上や免疫不全の患者さんに対して、ユナシン+ロセフィンの併用としている。

では、ロセフィンが効かなかったら?
菌培養の結果で、抗生物質を変更しなければいけませんが、培養結果が出てなかったら、ユナシン(ABPC+SBT)を足して、リステリアや髄膜炎菌への対応を強化するのが良いかもしれない。それでもダメなら、肺炎桿菌(クレブシエラ)などの感染を疑い、カルバペネム薬の使用となるだろう。

効かなかった時の一般的考え方
ペニシリン、第一・第二セフェム⇒第三セフェム⇒カルバペネム・ニューキノロン(バンコマイシン)
あくまで一般論です。

脳、脊髄系の術後、外傷後の髄膜炎
外傷や手術の場合は、まず、表在するブドウ球菌対策を考えます。脳外科術後や髄液シャント術後などでは、ブドウ球菌に有効なユナシンなどのペニシリンと、グラム陰性菌(緑膿菌等の含む)にある程度評価できるロセフィンを考え、本来、ユナシン+ロセフィンで良いのでしょう。しかしながら、日本特有ですが、ブドウ球菌の50%を超える確率でMRSAですので、参考ガイドラインではバンコマイシン+ロセフィンを勧めていました。それに従いました。

どれくらい投与するか
抗菌剤が有効なら、体温、WBC、CRPの順に改善するというのが常套。参考ガイドラインでは、CRPの陰性化、髄液糖量の正常化で中止としているので、それに従った。
ただし、改善過程で、抗菌薬の変更を行ってはならないと厳しく規定されていた。

というわけで
今月号から、抗生物質使用ガイドラインについて、順次解説してみたいと思います。それにしても、感染症の背景データを集積する事には、意味があるなあと改めて思っている所です。結局、ガイドラインのデータも日本の一般的な話で、「当院の」ではないので、今後「当院の傾向」を掴まないといけないのでしょう。

ネパールのこと

今月も記事が長くなったのでお休み

DRUG INFO FILE

過去の問い合わせから、興味深そうなものを選んで、毎月1〜2題を紹介するコーナーです。

Q:やせ薬って危ないのですか?
A:飢餓で太っている人は居ません!薬で痩せようと言うのは大間違い。

以前、耳鼻科から、「めまいを訴えている患者、いろんな検査をしてみても原因が見つからない。全て正常。薬を飲んでると言うので、見て欲しい」との依頼で、「韓国旅行で買ってきた」という薬を見たことがある。患者が言うには、「この薬を1〜2粒服用するだけで、食べなくても良い」のだと言う。「お腹が空きませんか」と尋ねると「全く空きません」とも言い、ほとんど食事を摂らない生活をしていたようだ。

間違いなく、食欲抑制剤である。「マジンドール」。日本では商品名サノレックス0.5rとしてノバルティスより販売されている。1錠225.3円。食欲中枢を抑制して「食べたいと思わない」ようにする。食事療法や運動療法がダメな時で、高度肥満(肥満度70%以上かBMIが35以上)に用いる事になっているが、薬理学的にはアンフェタミン(覚せい剤)と類似。おそらく、このようなモノだろう。こんな危険なものが、海外では易々とダイエット薬として売られている。

正常な判断をすれば、1日1〜2粒で、食べなくて済むほどのカロリーや栄養が摂れるモノが開発できたら、ノーベル賞もので、誰もが知っているハズである。アフリカの飢餓も、農業問題も解決できる。そんなものが、あろうはずがない。

近頃「センノモトコウノウ」とか様々な「痩せる中国漢方」で死者まで出た。もともと中国漢方として日本人が買っているものの多くは、西洋薬が混入されているニセモノ。「消渇丸」(糖尿病の薬)などは、しょっちゅう見せられますが、あれは糖尿病薬混入。カプセルや錠に入っている中国漢方など、そんなものである。私は信じない。というより信ずるに足る漢方を持ち込まれたことが無い。

今回の薬害は厚生労働省は全く関係ないし、何の責任も無い。個人が持ち込んで個人が被害を受けた、まさに自己責任の世界。
痩せているのが必ずしも良いことでは無い。飢餓で太る人は居ない。食べれば太るし、食べなきゃ痩せる。老化と同じくらい確かな人間の摂理。それに逆行する「やせ薬」にまともな物は決して無い。

あとがき
後発品。
診療報酬改定で、後発品を使って、院外処方を出したら、処方量が上乗せになるという、何とも嘆かわしい制度ができた。カネで釣ろうというのが嘆かわしい。そんなに必要だと思うなら、後発品市場を健全化し、良い後発品を育てればよい。じゃないから、うさんくさい感じが残る。
当院でも新規に10品目採用。一流ゾロ・先発問屋に限らせてもらった。支出削減効果は絶大である。クスリは完全にコストという感覚になった。

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