平成16年(2004年)10月号(第41号)

 

禁煙について考える。その1《ニコチン》

 

今月の表紙

タバコと言えば…。

私が昔、タバコを吸っていたころに好きだったのが、上の写真の「ゴールデンバット」と、他「キャメル」などでした。ゴールデンバットは、両切りタバコで、値段が安かった!この箱のデザインとふにゃふにゃの箱から、てっきり東南アジアの輸入タバコと思ってました。


さて、世の中は禁煙時代に入りました。私はと言えば、ネパールの首都カトマンズが世界第二位と言われる大気汚染で(それはすごいもので、マスクをして自転車で町を20分も走れば、マスクが真っ黒になります)、タバコを吸うどころではなくなって、タバコは止めました。


そういえば、ネパールでも「ドゥムロパン スワスティア コ ラギ ハニカラク ツァ」(喫煙は、健康に有害です)とタバコの箱に書いてありました。日本タバコでは「吸いすぎに注意しましょう」ですね。

今月のお題:禁煙について考える。その1《ニコチン》

タバコの話「まずニコチン」
今回から、「禁煙について考える」シリーズでやってみたいと思います。
まず第一回目は「ニコチン」です。ニコチンだけでも、ネタが多くて困っていますが、タバコのニコチンの害や相互作用から入って見たいと思います。

《タバコのニコチン》
タバコのニコチンについて、薬・毒物中毒救急マニュアル(改訂5版)から抜き出して箇条書きにしてみると、以下のようになります。
 ニコチン含有量:タバコ1本:16〜24mg含有
 致死量:成人30〜60mg(約2本)
 致死量:小児10〜20mg(約1本)
 中枢神経・自律神経節、運動神経末端で刺激・興奮作用。のち抑制作用。
 口腔、胃腸、呼吸器、皮膚から速やかに吸収
 酸性(胃液中)ではタバコからの溶出遅い
 8〜9割は肝で代謝。
 16〜24時間以内に尿中完全排泄


子供が、タバコ1本食べてしまうと、死ぬ量なんですね。
ただ、胃液中では、タバコからニコチンが出てくるのが遅いようなので、誤食後すぐに胃洗浄や、吐かせるなどの処置をすれば、何とか助かるようです。他、対処法としては、活性炭投与や下剤投与が書いてありました。

《ニコチンの急性中毒》
これも、薬・毒物中毒救急マニュアル(改訂5版)から抜粋すると、
 軽症:口腔・食道・胃などの灼熱感、唾液分泌増加・嘔吐・めまい・頭痛・顔面蒼白
 重症:振戦、激しい下痢、冷汗、錯乱、虚脱、呼吸筋麻痺
 摂取後30分前後で症状出現。摂取後2時間症状が無ければ心配いらない。
 大量ニコチン摂取では、刺激・興奮なく、いきなり麻痺、虚脱から瞬時に死に至る。

パチンコ屋さんなどに行くと、隣のタバコが気になったりしますが、あまりに激しくタバコを吸っている人が居ると、その煙で頭痛や吐き気が起こる人も居るようです。軽症の受動喫煙かな。
喫煙者が、大当たり連発などしていると、隣の非喫煙者は、それはそれはムカムカするものです。大当たり連発時などは、控えてもらいたいなあと、私などは思ってしまいます。


《タバコが漬かった水》
これが、急性中毒の上では、最も危ないと思っているのですが。

 タバコを水に漬けた場合、1時間に50〜70%のニコチンが溶出する。
 タバコの浸出液(タバコの吸殻入りの水)で、中毒症状発現は15分以内、高濃度なら5分以内に死亡。(日本中毒情報センター資料)

つまり、タバコが漬かっている、あの茶色い「コーヒー色」の液体は、高濃度のニコチンを含んでいて、液体だけに、誤飲した場合の吸収がメチャメチャ早い。

乳幼児死亡原因の第一位は「不慮の事故11%」(交通事故、溺死、家庭内災害)→家庭内では誤飲割合15〜16%(0歳児は39%:東京救急協会平成11年度の数値)という中で、小児誤飲事故では、タバコが最も多く、これは日本特有の傾向である(新谷ら:小児のタバコ誤飲事故発生原因に関する電話追跡調査、小児科臨床 45: 373-380(1992)となっています。

《タバコが漬かった水の誤飲事例》
実際に起こった事例と、その場に遭遇した、薬剤師の感想。
 父親がタバコの灰皿代わりに、瓶に水を入れたものを使用。
 その水を子が誤飲。病院に運ばれ胃洗浄等行ったが、甲斐なく死亡。
遭遇した薬剤師の感想:手塩にかけた、我が子が、タバコの吸殻ごときで死なれちゃかなわんでしょう。母親の様子は、半狂乱といった感じで、父親は、見るも哀れ。

《タバコが漬かった水は、絶対に放置しないこと》
ニコチンという化学物質の性質を知っていれば、タバコの漬かった水が、どれくらい危険か、想像付くかもしれませんが。幼児に対する不適切な環境は作らないように。

《ここまでの教訓》
 タバコは、子供の手の届く場所には、絶対に置かないこと。
 タバコの吸殻の処理まで、きっちりと気を配ること。
 「タバコの漬かった水は極めて危険」である事を、広く啓蒙する必要もある。

《ニコチンの作用:ニコチンパッチの添付文書から考える》
ニコチネルTTSという、いわゆる「ニコチンパッチ」が病院用薬剤として市販されています。
経皮吸収ニコチン製剤 
ニコチネルTTSの添付文書。禁忌の部分。
禁忌(次の患者には使用しないこと)
1. 非喫煙者
2. 妊婦、授乳婦〔動物で催奇形性及びヒトで乳汁中移行が報告されている。〕
3. 不安定狭心症、急性期の心筋梗塞(発症後3ヵ月以内)、重篤な不整脈のある患者又は経皮的冠動脈形成術直後、冠動脈バイパス術直後の患者〔カテコラミン放出促進による血管収縮、血圧上昇をきたし症状が悪化するおそれがある。〕
4. 脳血管障害回復初期の患者〔脳血管の攣縮・狭窄を起こし症状が悪化するおそれ。〕
5. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

1番の「非喫煙者」というのは、「?」ですが、(使わないでしょう、普通に考えたら)その後の文章を見ると、「催奇形性」「ヒトで乳汁中移行」「カテコラミン放出促進による血管収縮、血圧上昇」「血管の攣縮・狭窄を起こす」というキーワードがあります。


《禁煙=全ての問題解決ではない》
喫煙者は、タバコ内の化学物質に、ずっと曝されているのですから、喫煙者を普通のヒトと同じに扱っていると、薬物療法的には間違います。以下にいくつか具体例を示します。

《ニコチンとインスリン》
 喫煙者:末梢血管収縮、カテコールアミン放出亢進による血糖上昇

末梢血管が収縮するということは、
 注射したインスリンの皮下からの吸収量は低下する。

はっきりとしたデータではなさそうですが、一般に言われているのは、
 ヘビースモーカーのT型DMでは、インスリン使用量が15〜30%増加と言われる

と、なると、喫煙者を禁煙させた場合は、血管収縮が元に戻ったり、カテコールアミン類による血糖上昇作用が無くなるわけだから、インスリンの皮下からの吸収量が増加するなど、注射したインスリン作用が強くなることが考えられます。
 禁煙した場合:単位数調整の必要性考慮しながら観察

《ニコチンと血圧降下剤》
 喫煙者:カテコールアミン類の放出促進→血管収縮、血圧上昇傾向

ならば、高血圧の薬に対して例えば
 β遮断薬:作用の拮抗が起こっている→薬剤量は多く必要

 禁煙した場合:薬剤減量も考慮し観察必要
 全館禁煙の病院への入院:血圧変化を観察必要


《ニコチンと経口避妊薬》
 喫煙者:心血管系リスクが高い

 経口避妊薬添付文書
【禁忌】35歳以上で1日15本以上の喫煙者[心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなるとの報告がある。]
つまり、どちらも、心血管系に宜しくない化学物質です。なので、
 禁煙させるか、他の避妊法に切り替える。

と、言う具合で、喫煙者はいつも化学物質にさらされている体なので、喫煙中、禁煙中、禁煙後では、体の反応が変わってしまいます。常に注意が必要です。

今回は、ニコチンに限って、いろいろと書いてみました。中毒依存物質ですから、なかなか禁煙も難しいようです。次号は「タール」について書いてみたいと思います。「低タール」のからくりなど、タバコ自体の話が中心になりそうですが…。

《おまけ:ニコチン依存度テスト》 他にも、簡易版や改変版もあります。
ニコチン依存度テスト(Fagerstrom Tolerance Questionnairre)下に点数が書いてあります。

  0点  1点 2点
朝、目覚めてから何分位で最初のタバコを吸いますか? 30分以後 30分以内   
禁煙車にいると、禁煙することが我慢しがたくなりますか? いいえ はい  
一日の喫煙の中で、どんな時に吸うタバコが最もおいしいと思いますか?  決まっていない 朝の1本目  
一日に何本吸いますか? 15本以内 16〜25本 26本以上
午後に比べて午前中の方がより多くタバコをすいますか?  いいえ はい  
風邪で一日中寝ているような時にもタバコを吸いますか? いいえ はい  
タバコを肺まで深く吸い込みますか? 吸い込まない 時々吸込む いつも吸込む
いつも吸っているタバコに含まれているニコチンの量はどれ位ですか? 0.9mg以下 1.0〜1.2mg 1.3mg以上

《採点です》
ニコチン依存度:0〜3点(低い)、4〜6点(中程度)、7〜11点(高い)


《これで、禁煙にニコチンパッチを使ったほうが良いかどうかなどを見極めます》
簡易版な方法では、「朝起きて、何分くらいでタバコが吸いたくなりますか」だけでも、よくわかるそうです。これで30〜1時間以内と答えた方は、禁煙にニコチンパッチを使う事を勧めているようです。ニコチン依存度が低ければ、ニコチンガムでも可能だったりと、段階があるようです。



「認定:禁煙指導薬剤師」
私事ですが、熊本県薬剤師会の職能対策委員を委嘱されたのですが、はじめは「職能対策?」って何というような感じでした。委員会に出てみたら、薬剤師職能の向上への対策のようで、かなり幅広い印象でした。その中で、私の守備範囲の一つに「禁煙対策薬剤師」の研修などもあるようで、どうせなら「熊本県薬剤師会認定、禁煙指導薬剤師」を作りたいという意気込みで皆さんがんばっています。
近い将来、ニコチンパッチであるニコチネルTTSは市販されるでしょうから、これとニコレットの使い分け、禁煙時の薬物動態の変化と観察・注意点の説明など、薬剤師の仕事も多いだろうと思われます。私は、ネパールに住んでいる間に禁煙となってしまったので(決して自力で禁煙したわけではありません)、恵まれた日本で禁煙は難しいだろうなあと、心の中では思いながら、禁煙推進をしてゆきたいと考えています。


PS:タバコをネットで調べていると、アダルトサイトと同じ「有害サイト」扱いですね。厳しい!


注意:WEB版も、院内広報誌と同じ記載なので、商品名は当院採用薬名になっています。